![]() 手塚治虫文化賞新生賞の贈呈式、スピーチを青柳いづみさんに代読していただきました。 (原稿は今日マチ子、演出はマームとジプシーの藤田貴大さん) こんな内容でした。 ------ こんにちは、今日マチ子です 中学に入学したとき、わたしたちの学年に与えられた聖書の言葉は、「あなたはどこにいるのか」でした。 大学に入って、はじめての課題のテーマは「standing point」でした。 今日マチ子、というのはもちろん嘘の名前です。女優の京マチ子さんをもじったものです。 戸籍上、そんな人物は存在せず、 ことあるごとに、わたしは、どこにいるのか、問われます。 でも、そんなことはじっさい、大事なことなのでしょうか? わたしはいま、このステージではなく、客席に座って、贈呈式を眺めています。 いま話しているのは、 わたし、今日マチ子が描いた漫画「ミナモノグラム」の中に登場し、 今日マチ子を演じた、女優の青柳いづみさんです。 彼女はまた、戦争を描いた「cocoon」を舞台化したときにも、主人公であるサンを演じました。 わたしにとって、彼女の身体は、自分の一部でもあるような気がしています 今回、この、青柳いづみの身体を今日マチ子と呼んで下さい と朝日新聞社さまにお願いしたところ 嘘はいけない とたしなめられてしまいました。 嘘はいけない。 でもわたしは嘘が好き。 漫画を描くということは、あらゆる嘘を自在にわたりあるくことです。 わたしがどこにもいない世界は、神様の目から逃れているような、自由な世界です それでも、嘘の中に、なにか本当のことがないか、 自分以外のだれかの心と (それは、死んでしまった異国の少女であったり、独裁者の少年であったりしますが) 出会うような日はないのだろうかと 期待してしまっているわたしもいるのです。 それができるのが漫画だと思っているのです。 このたびは栄誉ある賞をいただき、本当にありがとうございます。 手塚治虫という虫つきのペンネームが、ほんとうの名前をこえて現実に君臨しているように、 わたしも、 嘘を掘り続けて「ほんとう」にとどくことができるよう、これからも描き続けていきたいと思います。 --------- (会場で配布された記念冊子に寄せて) 受賞のことば 個人のブログで1ページ漫画という、従来の新人デビューとは異なった形で漫画を描くようになったので、 自分は本当に漫画家なんだろうか、という不安がつねにありました。 手塚治虫先生の名を冠した賞をいただけたこと、 審査委員の方々に読んでいただけたことは、大きな肯定になりました。 己の力量をわきまえず、大きなものに向かっていってしまう悪い癖があります。 だいたいの作品は、何か結末をつけるというよりは、格闘して、叩きのめされて終わってしまいます。 まだまだ漫画家として学ぶべきことだらけです。 とくに、娯楽作品としての完成度を上げることは早急な課題であると重々承知しております。 それでも、わからないことを、漫画のなかで考え続けたい。 一番小さい者であること。 わからないということを手放したくないな。 手塚治虫という作家の、常に挑みつづけた後ろ姿をみながら、私も必死でついていかねばならない。 ---------- 受賞対象作は「アノネ、」「みつあみの神様」「mina-mo-no-gram」「U」です。 青柳いづみさんは、「mina-mo-no-gram」で同名の主人公を、 舞台版「cocoon」でサンを演じた女優さんです。 「U」ではわたしがわたしであること、の不安を描きました。 「アノネ、」は、実在したはずなのに、歴史上の人物として語られすぎることで自分がどこにもいなくなっていくこと、 「みつあみの神様」では、わたしを構成し、わたしのかわりに物語るモノたちを描きました。 なにがほんとうか、 わたしがどこにいるのか、 受賞作をあらわすパフォーマンスとはなにか、を考え このような形で挨拶をさせていただきました とはいえ、朝日新聞社さまとの事前のやりとりで、報道機関として嘘がないように、という現実との調整もけっこう大変でしたが、最後はOKをいただけてよかったです。 (そんな苦心をよそに、 後日の報道では「今日マチ子は欠席」と事実と違うニュースがあったのは、皮肉なことだったなあー)
by miootk
| 2014-05-31 19:13
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